プロトタイプ・コットン・ボウのつづき。
完成した直後に壊れてしまった弓。
糸を止めるのに使用した楔(くさび)が、
張力に負けてどこかへ飛んで行ってしまったのだ。
それから後日の活動日。
前回の失敗を踏まえていくつかの改善を取り入れた
楔の制作に取り掛かる。

改善ポイント① 楔に使用する木材
前回は、100円均一のお店で買った檜(ひのき)の木材を使った。
カッターや紙やすりで簡単に成形できる反面、
密度が低くて潰れたり膨らんだりするため、
断固としてふんばる役割の楔には強度が足りない。
つまり、

弓の楔には、もっと身の詰まった木材が適している。
ばでさんの助言によると、そういうことらしいのだった。
檜より密度の高い山桜(やまざくら)の木材を用意してくれていたので、
次はそれを使ってみることにした。
改善ポイント② 削りの精度
糸を差し込む穴を上から見ると、
台形になっている。
さらに、入口あたりから穴の奥にいくにつれても
狭まるようになっているので、
いわば『縦にも横にも、台形』、
そんな複雑な形をした空洞なのだった。

どこかに飛んでいってしまった楔は、
この空洞全体を満たすよう、細長い形状に作っていた。
でも楔としてしっかり機能させるためには、
あえて少し中に空間を残すイメージで、
台形の薄い蓋のような形状に作った方がいい。
と、ばでさんは言う。
なるほど。弓作り班の腹にもすんなり落ちる仮説だった。
そんな二つの改善ポイントをしっかり踏まえて、

じゃあ、早速やろうか!

はい、やります!
作業手順は前回と同じだ。
ダイス状に切り出した木材を手に取り、
それを紙やすりにこすりつけて目指す形になるまで削る。

誰かがこんなことを言った。
「“弓作り”って、もっと優雅な体験かと思ったね(笑)」
言われてみれば、
木漏れ日の中で切り株に腰掛けて
森の動物たちと一緒に過ごすような日々を
最初はイメージしていた気もする。
それでも、木の粉にまみれてひたすら削る地道な作業で
一度は本当に弓が作れちゃったというのだから面白い。
手を動かしながら、思わず笑みがこぼれる。

木材を削ったりはめ込んだりするのは、
いわば“木工”の作業だ。
だけど今作ろうとしているのは弦を弾くための弓。
形を作るだけでなく、
それが演奏に使えるものじゃないといけない。
張った糸が平らな面を作っていないときっと弾きづらい。
糸が交差していてもだめだと思う。
それに演奏時にかかる力で壊れてしまうようではいけないのだ。
一度目には気に掛ける余裕のなかったそんな色々が、
いちいち頭をよぎる。

もう二度と、取れませんように!
そう願いを込めながら、しっかりと楔を埋め込んだ。
そして……。
「……今度こそ、できたーっ!!」


「おお!!もうできたの!?」
「もう、取れないよ」
「接着剤使ったの?」
「接着剤は使ってないよ、がっちりはまってるから大丈夫」

今度こそ、
しっかりネジを締めて演奏をしても壊れることのない、
正真正銘の『綿の弓』、その試作品がここに完成したのだ。
【綿で紡ぐメロディ 冒険譚】
地道な作業の果てに おわり