平塚市で長年、染織作家として活動される田中朋也さん。
昨年10月に開かれた展示会「糸」を見学させていただいたご縁から
田中さんのお仕事場をお訪ねする機会をいただきました。
厚木市七沢の自然に囲まれた静かな作業所で
綿のことに始まり、紡ぎや織りのこと、染めのことだけでなく
作家として活動するなかで得られるよろこびや
若者たちへのアドバイスまで
いろいろのことをうかがう楽しい時間になりました。

おやすみの日にありがとうございます。
ぼくら“ニュードプロジェクト”として
綿花栽培や糸づくりに挑戦しているんですが、
こちらがそのメンバーである「ばでさん」。
そして平塚中等教育学校の“じぶんラボ”という
自己探求のプロジェクトで一緒に活動してくれている生徒のみなさん。
今日は田中さんの普段の仕事ぶりや
染織作家としてのお話について伺いたいと思って来ました。
どうぞよろしくお願いします。

よろしくお願いします!


はい、よろしくお願いします。

(テーブルの上に置かれた糸を見て)
早速ですが、これが実際に撚られた綿糸(めんし)ですか。


そうですね。
これはもう撚り止めをして糊もかけてあります。
“カーダー”ってわかりますかね。

“カーダー”、ブラシみたいな。

そうですね、これがカーダー。
綿用だともうちょっと細かいんですけど、
これでも全然平気なので。


Ashfordさんのものですね
同じものをぼくらも買いました。

これは、基本は羊毛用なんですね。
“綿打ち(わたうち)”しちゃうとどうしても
ほこりが大変なことになっちゃうので。
あっち(隣の広い部屋)みたいな部屋なら
“綿打ち”をビンビンしてふわっと飛ばして
ごみとかを取ることもできるけど。
これが種を取ったばかりの和綿ですけどね。


“綿打ち”っていうのは
あの、弓みたいな道具(※)でやるやつですね。
※ 棉弓(わたゆみ)

そうですね。
弓の“つる”のところに綿を挟んで
ぽんって向こうに飛ばすんですね。
そうすると綿が開くので
それをビンビン、ビンビン
繰り返しやっていくのが“綿打ち”。

種を取ったばかりの状態だと
まだ綿の繊維が絡み合っているので
“綿打ち”をしてばらばらにするんですね。

そうですね。

ブラシ(カーダー)を使う前の段階で
その“綿打ち”をするっていうことですか?

“綿打ち”をしたら
その場合はもうカーダーはかけません。
もう広がってるので。

今だとカーダーを使っている
綿を整える工程(カーディング)を
昔ながらの日本のやり方でやると
“綿打ち”ということになるんですね。

そうですね、そして打った綿は
四角い箱にこう並べてあります。


綿がもともと日本に入ってきたのは
西暦8世紀ぐらいなんですけど。
8世紀ぐらいに崑崙人(こんろんじん)っていう
当時のインドの人がたまたま漂流してきて
その人が持ってた綿の種を
日本の人が「これ何?」って聞いて
「こういうものだよ」と教えてもらいながら植えたけど
日本は寒いので定着しなかった。
そのまま長いあいだ日本では栽培できなくて
結局綿は中国や韓国から輸入してたんですね。
それでも15世紀か16世紀ぐらいからまた綿を植えて
根付くか根付かないかってぐらいはやっていたんだけど
本当にちゃんとやり始めたのは400年ぐらい前ですね。
で、それからやってるのは
日本に定着した短い綿ですね。
“ヘルバケウム”という種類。

それは綿の品種の名前ですか?

そうですね。
ほんとうは「品種」とは違う(※)んですが綿は4種類に分けられて
“アルボレウム”というのと今のこの“ヘルバケウム”っていうのと
“バルバデンセ”と“ヒルスツム”というものになります。
※正しくは、ワタ属の植物の学名だそうです。
★じぶんラボ調べ
ヒルスツム(G.hirsutum)
バルバデンセ(G.barbadense)
ヘルバケウム(G.herbaceum)
アルボレウム(G.arboreum)
みなさんが育てているのは
シーアイランドコットン(海島綿)ですかね。

シーアイランドコットンと
それ以外にもいくつかの種類を栽培しています。

シーアイランドコットンだと“バルバデンセ”っていうのが
元になった品種になるんですね、“超長綿”ともいうんですけど。
それよりもちょっと繊維が短いよっていうのが
アメリカなんかでやってる“ヒルスツム”っていうのが原産の綿になります。
アジアはこれ(ヘルバケウム)系が多いんですね。

一方、日本では“アルボレウム”の仲間の綿が根づいた。
それで日本では“紡ぐ”というのは
大体こういうものでやったんです。


もともと麻に撚りをかける道具だったんです。
日本ではあんまり綿はもともとやっていなくて
戦国時代のころから徐々に広まっていった。
もともと着物用なので糸が太いんですね。
太いと工業用(の道具)には乗らないので、
大体家庭内で着物を作って着ていた。
あとは大名のところなんかへ
日本の中で貿易するのための反物として売ったりもしていた。
日本の繊維と言えばもともと綿やシルクよりも先に
木とか草とかから作るのが主流だったんです。

先日の、北海道の織物もですね。
(田中さんがInstagramで紹介されていたのを先日見た)

そうですね。
“アットゥシ”は“オヒョウ”から作られるアイヌの織物です。
この辺だと“カラムシ”っていうのもありますけどね。
あと沖縄だと芭蕉布(ばしょうふ)とか。
寒いところだと藤から取った藤布(ふじふ)っていうのとかね。
あと“しな布(しなふ)”。
“コウゾ”は紙をすくあれですね、そこから取った“太布(たふ)”。
あとは静岡なんかだと
葛から取った糸で作る“葛布(くずふ)”っていうのもありますね。

そのどれも植物から作る繊維ということですね。

はい、その場合は糸にしたものをつないでいくことを
“紡ぐ(つむぐ)”ではなくて
“績む(うむ)”っていうんですけど。

“うむ”?

はい、“うむ”。
糸へんに責という字を書きます。

糸に責…あ、紡績の“績”!

ああ!この字で“績む(うむ)”なんですね。

こういうふわふわなものを見ると羊を連想するせいか
動物からとるのかなっていうイメージを持ってしまいますけど
日本の歴史ではずっと古くから植物で糸を作ってきたんですね。

もともとそれが主流ですね
綿が入ってくるよりも前にシルクがあって。
野蚕(やさん)って普通に山にいるんですけど。
そういうところから糸を取っていた歴史があって。
そのあと150年ぐらい経ってから羊毛が入ってきます。

その時にこのカーダーも一緒に入ってきたんですね。

そうですね、カーダーとかそういう道具も一緒に入ってきました。

それまでは“綿打ち”でほぐしていた綿にも
応用できそうだということで
元々羊毛用だったカーダーも使うようになったんですね。

ええ、でも海外なんかだとね
この羊毛用ではないのもあったりする。
インドとかだとシルクも綿打ちしているといいます。

へぇ、シルクも綿打ちするんですね。

でもシルクって結構、長いんじゃないですか。

短いのもあるし
ほこりを取ったりしないといけないですからね。
だから、こういう短い糸との付き合いは
日本の歴史的には400年ぐらいしかない。

寒いようだったらこっちに来てくださいね。
このへんが暖かいですから。

座布団持ってきてストーブを囲ませてもらいましょう。

ありがとうございます!(笑)

「1. 糸を“紡ぐ”。糸を“績む”。」はここまで。
次回の更新では「2. 着心地も変わる、撚りの方法」をお届けします。