スピンドルを使った糸撚りは実際にやってみると難しい。
田中さんに糸撚りの実演とアドバイスをいただき
思わず納得の面白い気づきがありました。

これ、まだ本当にちっちゃくて
やなぎさんがスピンドルで作ってくださった糸で
私が編んだんですけど。


太さが一定していないのでちょっと編みにくくて
どうすれば均一に紡げるようになるんでしょうか。

それはもう数を紡ぐしかないですね(笑)
どんどんどんどん、経験です。
ちょっとやってみますね。
これはちょっとね、超長綿じゃないのであれなんですけど。


すごい、魔法みたいに細い糸ができてる!

ただ自分は羊毛に合わせているので
これ“時計回り”に紡いでいるんです。
だけど、着物をやってる方はみんな逆
“反時計回り”に紡いでいるんですね。
日本だと綿と麻はみんな
上から見ると“反時計回り”に撚りをかけてるので。

撚りの方向による違いって
どんなことがあるんですか?

多分、もともとやってたからということで
そういうふうになっちゃってるだけだと思うんですけどね。
でも羊毛なんかだと左利き・右利きの利き手によって
撚り方や仕上がりが変わるんですね。
たとえば、右利きの人がこう紡いでいきますよね。
そして編む時にも同じ方向に撚りがかかると
しっかりぎゅっとするので
固いセーターになるんですね。
逆に左利きの人が“時計回り”に紡いだ糸で同じように編むと
撚りがほどけてふわっとしたセーターになる。

確かに…、あ、本当だ!


その人によってにはなるんですけど
でも他の人と一緒に作るときは
逆回りでも合わせた方がいいのかなっていう。
あとはねスピンドルを落として
こういうドロップ型で引いていくっていうやり方もあります。
こう(スピンドルの重さを利用して)引いていく。
皆さんはテーブルの上でこう置いてやる?
そういうやり方もありますよね。
あれは多分ね、普通にこうやってじかに置くよりも
お茶碗とかの中に入れてやった方がいいと思います。

お茶碗ですか。

そうすると同じところで回ってくれて
外に行っちゃったとかっていうのがないので
お茶わんの中でやった方がいい。
そういうやり方がアジアの方ではあります。

さっき、撚り止めした糸に糊をされたということでしたが
先日僕らも糸を蒸して撚り止めをかけて
「ほんとうに撚りが止まったぞ!」
と感動してたところなんですけども
糊っていうのはどういうふうにするものなんでしょうか。


普通やる方は、20%の小麦粉を溶いたやつで煮るんですね
そしてそれを“糊をかける”っていう状態にするんですけど。
自分は昔からある洗濯糊っていう粉の糊
でんぷんの糊があるんだけどそれを水に溶いて
一日ぐらい回しながらつけ込んでおいて
糊をするようにしていますね。

“舌切り雀”のスズメが舐めちゃうやつですか。

それはお米を練ったやつだと思うんですが(笑)
洗濯糊っていう粉のものがあるんですよ。
シーツ糊とかって言ったりもする。
ただこれは蒸してますよね。
蒸す方法だと蝋(ロウ)成分がそのまま残っていて
水に沈まないので染めたりとか
今のように糊づけにするっていうのは
難しくなっちゃうんですね、はじいちゃうので。
なので煮た方がいいですね。
“かせ”(糸を束ねた状態)にして
それをグツグツ煮て沈んだら“オッケー”の合図。

表面の塗膜にするんじゃなくて
“染み込ませる”っていう感じですね。

そうです、染み込んでいって初めて
いろんなものに使えるようになるんですね。
もしこれを染めたいなって言った時には
蝋の成分がはじいちゃうと浸透していかない。
色を浸透させるようにしなきゃいけないので
だから”煮て”撚り止めをした方がいいですね。

蒸すよりも煮た方がいいんですね。

羊毛で毛糸とか作るときには蒸す方法をやるんですけど
あれは蝋(ろう)の成分がないので。
洗ったりするときも蝋の成分があるから
汚れがあまり取れない生地になっちゃう。
逆に雨とかをはじいてくれるんですけどね。


天然繊維だから、洗濯されるたびに
ちょっとずつ弱まっていくっていう印象があったので
煮るよりも蒸した方が
少しでも長持ちさせられるのかなと思っていました。

例えば藍染めをしたいなという時がありますよね。
綿はすごく相性がいいんですけどそのままでは色が入らない。
だから煮て沈んだらある程度蝋が取れるんですけど
もっと取り除きたい場合は“精錬”っていう方法があって
それはアルカリ系の水で煮るんです。
でも自然素材で全部いきたいという事情のときは
木材とかを燃して、その灰の上澄みを使って煮るといいですね。


煮る水を灰でアルカリ性にするんですね。

はい、紙とか燃してもアルカリにならないので、
ちゃんと木を燃さないと駄目ですね。
ただ木も毒性のものがあるので、
梅とか桜とか、竹とかそういうものを燃した方がいいですね。
特にね、キョウチク(夾竹桃)とか燃しちゃうとね、
毒が出て死んじゃいかねないですからね(笑)

田中さんのそういった知識や知恵は
ご自分で体験される中で編み出していったものなんでしょうか。

わからないことは人が書いてる本がいっぱいありますよね。
あと知り合いがそういうのをやってると教えてもらったりとかですね。
あと一つのことやってると
あ、こっちの方も勉強しなきゃいけない。
これやってるうちにこっちも。
っていうふうになるのでいろいろ身につきますね。
「2. 着心地も変わる、撚りの方法」はここまで。
次回の更新では「3. 見て、持って、触ってもらって伝わること」をお届けします。