会場をさがせ:1に引き続いて、段取り班の冒険の様子をお届けします。
ひらつか市民活動センターを出発して、
ひらしんホールの自動ドアをくぐるとすぐ右手に総合受付があった。
これまで何度かここを訪れたことはあっても、
なにか用があって受付を訪ねたことはなかったかもしれない。
「すみません。」
最初の一言は少し緊張する。
受付のお姉さんの笑顔に、ほんの少し肩の力が抜けた。
学校名と名前を名乗ってから、
チェロの演奏会をできる会場を探していること、
想定している来場者数と、
みんなで話し合って決めた10月の開催日程を伝えた。

「それなら、小さめのホールか練習室くらいがいいですね。お席どうぞ。」
お姉さんはそう言ってから、
大きなバインダーをこちらに向けて、
10月の予約状況のページを見せてくれた。
「この練習室か、このあたりが規模的にはちょうどよさそうだけど…、
あいにく、もう予約が入っていて使えないですね。」
お姉さんが指差した表の枠には、
“予約済み”を表す記号が書いてあった。
お姉さんの手の陰にあった
大きなホールの予定もチラ見したけど、
そちらも当然のように予約が入っているのだった。

空いてないか〜、残念!
うしろから覗き込んだやなぎが言う。
「わかりました、どうもありがとうございました!」
そう言って立ち上がると、一礼をして退室する。
「だめだった、予約いっぱいだったー」
ひらつか市民活動センターへ戻ると、仲間たちにそう告げる。
「うわー、ひらしんホールだめか〜」
仲間からも落胆の声。
でも落ち込んでもいられない。
「さあ、そしたらどこにしよっか!」
会場候補のリストをまた覗き込んだ瞬間、
「八幡山の洋館とかどうですか?」
ニュードクラブのつっちーだった。
予想もしなかった提案に、空気の流れが変わる。

「僕、あそこお庭の手入れのお手伝いとかしてるんですけど」
「八幡山の洋館…って、平和慰霊碑があったところでしたっけ」
「そうそう、演奏会とかもよくやってるみたいだし丁度いいんじゃないかな」
国登録有形文化財
八幡山の洋館
(はちまんやまのようかん)
パソコンの画面に映し出されたのは、
通学途中にいつも見ているヨーロッパ風の建物だった。
アンティーク調の照明や家具もチェロのイメージに合っているし、
少し日常離れした雰囲気も、
夢のある企画イベントをやる舞台として相応しい。
「もしそこにするなら僕から話してもいいけど、直接電話してみた方が話が早いかも」
こう言うので、早速電話をかける。

みんなの見守る中、さっきと同じように要件を伝えると、
「その日はね…、第二なら空いていますよ。」
部屋の中で小さく歓声が上がる。
「でも、少し狭いかもしれないから、近いうちに現地を見に来て決めてくださいね。」
近いうちに現地を見に行かせてもらうことを約束して、お礼と共に電話を切った。
こうして企画『綿で紡ぐメロディ』は、段取り班の大活躍とともに歩き出した。
次は、この洋館を自分たちの舞台にするため、弓作り班や糸撚り班の物語が始まる。
【綿で紡ぐメロディ 冒険譚】
会場をさがせ:2 おわり