ニュードコットンニュードクラブインタビュー

6. “薬を着る”染色の効果と活用 【田中さんにうかがった染織のこと】

多様に発達した技術や知恵を知るにつれ、
一概に「こうすればいいのに」とは言えないことが分かってきます。
ある目的に集中すればするほど、対象も手段も狭まってしまうんですねー。

やなぎ
やなぎ

染色って、草木とかあるいは化学的な染料とか
いろんなもので染められると思うんですけど

“なにで染めるかによって、いろんな薬効がある”って
展示会のときに伺ったお話を
もう一度聞かせていただけますか。

田中さん
田中さん

はい、もともと染めっていうのは
薬のため、つまり“健康のため”に染めるという目的と
偉い人の着物を染めて
「一般の人はこの色には染めちゃだめだよ」と決めて
“権威の目じるし”にしたっていうのが両方あったんです。

薬を飲むことを「服用する」って言って
洋服の”服”って字を書きますが
あれは身につけるっていう意味。

つまり薬を身につけてたっていうことなんですね。

やなぎ
やなぎ

薬は「飲む」、「塗る」だけじゃないんですね。
具体的にはどんな効果があるんですか?

田中さん
田中さん

たとえば紅花(べにばな)っていうものがありますよね。
女の子の赤ちゃんは体が冷えちゃいけないから
紅花で赤色に染めた生地で包んであったかくする。

あとウコン、ターメリックですね。
男の子は胃腸が弱いので
ウコンで染めておくるみにすると
よだれでその成分が溶け出して
それが口の中に入ったりすると胃腸が強くなる。

ほかにもいろんなものがあるんですけど
これで染めるとちょっと痛みが少なくなるね
みたいなことも言われてるんですよね。

じぶんラボ
じぶんラボ

染めるものによって、いろんな効果があるんですね。

やなぎ
やなぎ

うちの子どもはアトピー性皮膚炎で
化繊のものを着せるとすぐ荒れちゃうし
特に関節の内側なんかは肌が荒れやすいんですけど
そういう子におすすめの原料ってあるんですか。

田中さん
田中さん

なかなかそういうのだとよくわからないんですけど。

止血剤としての効果がある蓬(よもぎ)で染めると
肌荒れに対する効果があったりとかっていうのも言いますね。

やなぎの子どもの肌荒れは、ニュードが「子どもに安心して着せられる、肌に優しい服」を考え始めた一番のきっかけ。
田中さん
田中さん

色を出すための染め物でいうと“焙煎”っていう手順があって
銅とか鉄とか、ミョウバン…アルミとか
そういうので焙煎させて色を作るんですけど。

これはね、羊の原毛なんですけどね。
白いやつをカラスノエンドウで染めてるんです。

じぶんラボ
じぶんラボ

カラスノエンドウ。
葉の部分ですか?すごい綺麗!

田中さん
田中さん

そうですね、葉っぱで染めています。

こっちはなんだっけな
なんかの葉っぱだったけどミントだったかな(笑)
チタン焙煎っていって金属のチタンで焙煎しています。

やなぎ
やなぎ

こんな綺麗な色が金属焙煎だと出るんですね〜。

田中さん
田中さん

変な話ね、「綿100%」って言っていても
機械紡績だとポリエステルの綿を作ったその機械を使って
天然繊維の綿を加工したりすると
前に残ってたものが入っちゃう可能性がるので
本当の綿100%を作るんであれば、
100%それしか作らない工場でやらなきゃいけないですね。

じぶんラボ
じぶんラボ

素材が混ざっちゃうんですね。

田中さん
田中さん

この間の展示会に来てくださった方は
そういうことをやってないところを選ぶって。

綿打ちを機械でするそうなんですけど
布団をかさ増しするために
ポリエステルの綿を入れているところもあるので。

そうでなくても
ポリエステル素材の繊維が針のところについていたりすることもあるし
本当に重症の人はちょっと混ざるだけで出ますからね。

田中さん
田中さん

昔あった話で
ある人がごまを食べたらアレルギー症状が出て
アレルギーじゃないのにどうしてだろうって調べてみたら
そのごまを運んだタンクローリーが
以前は大豆を運んでいたことが分かった。
その人は大豆アレルギーだったんですね。

だから本当に厳密にやっていこうとすると
どんどん、どんどん
狭まっていってしまうことにはなりますね。

やなぎ
やなぎ

遠く離れた原因が
健康上の問題として出てきてしまうこともあるんですね。

田中さん
田中さん

本来無い色を染めで出していくときは
化学染料を使うものの他に
鉄とかアルミとか銅とか
錫(すず)、クロム、チタンを使ったりするんですけど。

その中で一番「アレルギーがないよ」って言われてるのは「釘(くぎ)」
錆び釘で作った“鉄焙煎”と
ミョウバンを使う“アルミ焙煎”。
色はそんなにでなくなっちゃうんですけどね。
その代わりアレルギーは出にくいそうです。

あとは、“藍染め”の場合
藍甕(あいがめ)の中で“(藍を)建てる”っていうんですけど
それを本来の灰とかお酒とかで建ててるか
化学物質で建ててるかっていうので、またちょっと違う。

じぶんラボ
じぶんラボ

その場合、色も変わってくるんですか?

田中さん
田中さん

そうですね、色的にはほとんど変わらないんですけど
ただ化学で染めちゃうと濃く染まらないことがあるんですね。
脱色剤とか還元剤っていうのを使っているので
それがあまり多いと色が逆に抜けちゃう。

やなぎ
やなぎ

今お話し伺っていて思ったことをまとめてみると…

「完全に天然素材しか使ってない工場で作ってます」とか
「オーガニックを徹底しています」っていうことが
体調や体質に心配のある人にとっては、とても安心だったりする。

だから本当にこだわってこだわって…もう全部検証して
『混じりっ気のない完全なオーガニックで天然の処理です!』
っていうふうにした結果って実際にはすごく狭い世界で。

冷静になってみて考えると
無理してこだわり抜いてゼロにしたそれらが
本当に、人が本来避けるべき「良くないもの」だったのかっていうと
実はそうでもなかったり。

田中さん
田中さん

そうですね。
日本とか、どんどんきれいになっていって
なんでも除菌っていうふうになっていますよね。

インド人はお清めって言ってガンジス川に入ってるんですよね。
その上の方でおしっこしたり死体を流したりしてますけどね。
実際にはそっちの方がアレルギーが少ないそうなので
ある程度汚いものも取り込んでいかないとっていう。

化学的なものを入れすぎちゃうとちゃうのは
よくないっていうのもありますけどね。

やなぎ
やなぎ

アレルギーって“免疫異常反応”だそうで
本当は身体にとって悪いものじゃないのに
過剰に反応して肌とか呼吸器に出ちゃったりするみたいですよね。

田中さん
田中さん

そうですね。

昔むかし、人間にはおなかの中にいっぱい虫がいたので
その虫を倒すための物質がいたんですけど
今はみんなきれいになっちゃったんで
倒す相手がいないから持て余して
入ってきた花粉に対して「こいつにしよう」って
みんな花粉症になっちゃってる。

もともと花粉は全く人間に害はないんですよね。

やなぎ
やなぎ

こういう身体的なこともそうですけれども
現代、コミュニケーションのかたちがどんどん変わってきている中で
僕が最近考えていたのは
社会全体がアレルギーになってはいないかなって。

本当は隣にあってもいいものなのに
それとの間に線を引きたがる、必要以上に距離を取りたがる
みたいなことって時代的に増えてるんじゃないかなと思ったんです。
もちろん、本当に避けるべきものは避けるべきだと思うんですけれど

でもこういうすてきな色にやっぱり染めたいから
うまく取り入れて付き合うみたいな
寛容さも持てるといいなと思いました。

田中さん
田中さん

染めの話で言うと
草木染めっていうのは自分から色を出すんです。
温かみのある色を自分で出していて
それはあまり人を選ばない

でも化学染料っていうのは
あんまり自分から色を発することがないんですね。
それでいて、どこか色が「ぱーん」と突っ張っていて
この人にはこの色が似合う。この色にはこの人が似合う。って
色が勝手に人を選んじゃうっていうところがある。

やなぎ
やなぎ

自然の寛容さ…というか、無関心さはいいですね(笑)

そうだ、先日インスタで拝見したときに
糸をお鍋で染料に漬けて染めていたと思うんですけど
これは糸にする前の状態で染色されているんですか。

田中さん
田中さん

インスタに載せていたのは工業生産の綿糸なんですね。

食事のときとかお茶を出したりするときに
下に敷いて使ってもらうランチョンマットとか
ティーマットとかを作るので
なるべく色が丈夫なものにしようと
糸の状態で染めてるんです。

田中さん
田中さん

羊毛は原毛の状態で染めた方が
色むらがあってもカーダーにかけてしまえば
色が馴染むのでやりやすい。

綿もそういうふうにやってる方もいるんです。
こういう原毛…原綿っていうんですか
綿の種を取った状態でアルカリで煮て蝋成分を出して色を染めて
それから紡ぐっていう人もいるんですけど
ちょっとぎしぎししちゃって
紡ぎにくくはなっちゃうんですね。

やなぎ
やなぎ

油が抜け過ぎちゃう感じですか。

田中さん
田中さん

そうですね。
糸にしてから染めるっていう方もいますね。

やなぎ
やなぎ

なるほど〜、勉強になりますね!(笑)

じぶんラボ
じぶんラボ

(笑)

田中さん
田中さん

そうですね。
羊毛の染め方、シルクの染め方、綿の染め方。
いろんな方法がありますね。

「6.“薬を着る”染色の効果と活用」はここまで。
次回の更新はこのシリーズ最終回となる
「7.趣味が仕事に変わる瞬間。その予兆。」
大先輩と若者がクリエイターとしての魂をぶつけ合う一問一答をお楽しみに。