撚った糸の“撚りを止める”。
板の上に整然と並んだ糸に蒸しタオルを載せて、
アイロンやスチーマーで高温の蒸気と圧力をかけていく。

ネットの情報によれば、
15分から20分くらい蒸せば糸の撚りは止まるという。

もし蒸しが甘くて糸がほつれてしまったら。
はたまた、強度が出なくて糸が切れてしまったら。
この夏にみんなで撚った糸が無駄になってしまう。

「念の為、ね。」
「おまじないにもう少しだけ!」
結局、「もう大丈夫だろう」の判断を下すのには、
ネットの情報の倍ほどの時間を要することになった
いよいよ、載せたタオルを剥がしてみる。


「切れる感じでもなさそう……?」
「でも、板から外してみないと分かんないね」
「すごい怖いけど!(笑)」

試しに、糸を一本だけ板から外してつまみ上げる。
……撚りたての糸とは、まったく違った感触。
上から吊るしてもくるくる回ったりしないし、
左右に引っ張ってみても切れない。

どうやら……、本当に撚りが止まったらしい。
自分たちで考えた方法で、ちゃんと予想通りの結果になった。
そしてなにより、
みんなで撚った約60本の糸が、ついに綿糸になった!

これなら、糸撚り班もきっと喜んでくれるはず!
そう、
「糸撚り班もきっと喜んでくれる」
……というのも、
この日、糸撚りの仕上げとなるこの“撚り止め”の作業を進めたのは、
糸撚り班ではなく、段取り班と弓作り班のメンバーだったから。
やなぎさんもいつも、こんなふうに言っている。

ほかの用事や楽しみがあれば、
迷わずそっちを優先して欲しい。
でも、部活動や家族との予定の関係で日曜日の活動にどうしても来られなくて、
撚った糸をここに一本も束ねることができなかった糸撚り班のメンバーもいる。

演奏会本番までは、あと3週間。
関わり方やタイミングはそれぞれでも、
一緒に成し遂げた8人共通の冒険として思い出したい。
イベントに向けてどんどんと形ができていくにつれて、
そんな想いが、すこしだけ気になってしまうのだった。

【綿で紡ぐメロディ 冒険譚】
「糸は、繋がった。」 おわり