糸を蒸して撚り止めしてから一週間、
いよいよ本番で使う“綿の弓”を完成させる日がやってきた。
この日の市民活動センターには、
今までで最多となる6人のラボメンが集まっていた。
けれどその内訳は、段取り班3人と、糸撚り班3人。
肝心の弓作り班は、2人とも予定があって参加できないという。
6人はまずホワイトボードを前に着席して作戦会議を始めた。
「今日、弓を完成させないと、演奏会に間に合わないかもしれない」
「来週なら弓作り班が来れるって確証もない」
「じゃあ、今日、今いるメンバーでやってみよう」

弓作りは一人か、多くても二人でやる方がいい。
試作弓を弓作り班と一緒に完成させたばでさんがそう言う。
繊細な調整と集中力が必要な弓作りの作業は、
大勢でわいわいやるのには不向きらしい。
「じゃあ、誰がやる?」
そう尋ねられると、間髪を入れずに2人が手を挙げた。
「俺やります」
「俺も!」
チームのピンチに立ち上がったのは、
これまでの活動にはなかなか参加できず1本も糸を完成させられなかった、
糸撚り班の2人だった。

先週の糸の撚り止め作業にも立ち会えなかったこともあり、
ここで取り戻そうという気持ちがあったかもしれない。
この夏の努力の結晶とも言える糸は、彼らの男気に託された。
ただ気がかりなのは、弓作りは試作段階で一度失敗しているということ。
もし初挑戦の彼らが糸をダメにしてしまったら、もう替えはない。
糸撚り班が参加できなかった撚り止めは、
「糸は、繋がった。」 で、
弓作りの失敗は、
プロトタイプ・コットン・ボウでお楽しみください。
そこで2人は、綿メロ冒険譚を読み返して、
これまでにどんな失敗があったのか、
何に気をつけるべきかを確認してから作業に取り掛かった。

一方、残りの4人は、弓作りを2人に任せてホワイトボードの前に集まっていた。
曲を決めて、当日のプログラムを精査して、看板のデザインを練る。

こうなると、最初に決めた“班”という枠組みはもう意味を失っていた。
「この作業はこの人の担当」なんて、もう誰も気にしない。
やりたいことに手を伸ばして、一緒になった仲間と笑って取り組む。
「俺、手先不器用なんだよな」
「アンコールはみんなが知ってる曲だよね」
「リーダーのあいさつ、こんな感じでどうかな」
どんどんと企画が形になっていく中で、
演奏会の実現が「自分の楽しみ」に変わっていくようだった。



やがて、会議室の一角から声があがった。
「弓、できました!」
「おお、ついに!」
完成した弓を囲んで張り具合を確かめているそのとき。
今日は来られないはずだった弓作り班のひとりが、
弓の完成を気にかけて、予定を調整して駆けつけてくれた。


え、すごい! もうできてるっ!?
予想外の進捗に驚く声。
「どう、弓作りの先輩として、クオリティに不満は?」
弓作りを手がけた2人も胸を張って、できたばかりの弓を披露する。
「ううん、大丈夫!ちゃんとしてる!」
経験者のお墨付きももらい、正式に“綿の弓”が完成した。
同じ頃、曲も決まってプログラムも固まった。
今となっては演奏会当日の景色が、全員の頭にありありと浮かぶ。
「ねえ楽しみだね!」
「うん、楽しみだね!」
そんな声が、ひらつか市民活動センターの会議室に響いた。
暑さもいくぶん和らいだように感じる、夏の日の昼のことだった。
弓も完成してあとは本番を待つばかり…!
と胸を撫で下ろしながら書いた今回の更新ですが、なんとこのあともう一山ありました。
次回更新もお楽しみに!
【綿で紡ぐメロディ 冒険譚】
それぞれのじぶんゴト おわり